2003年3月9日日曜日

事務局だより

「学び舎づくりを支援する会」が活動を開始してから4年以上の年月が経ちました。今年は3棟目の学び舎が、ボリヴィア・コチャバンバ県のコチ・ヴァケリーヤ村に建つ予定です。


建築はハード?ソフト?             

 「ソフト」と「ハード」の一般的定義からはずれますが小生の考えを記します。
 建築の存在の力を信じている建築馬鹿の小生としては建築をみんなでつくるというのは最高のひととひとの知恵をあつめた「ソフト」なのではないのかなと思っています。そうしてできた建築は累々にわたり誇りとなるように思います。識字教育のための器をつくるというのではあまりにも現代的な機能主義に落ちてしまうのではないでしょうか。
 識字教室は一次的な目的であり「彼らのあつまれる場があること。その場が彼らの力でできたこと。それを修理しながら累々に伝えることで彼らの自尊と自立になる。」そのためには建築は美しくあってほしいと思います。(ちょっと誤解が生じそうですが)建築家の端くれとしてそうした彼らが自慢できて長く愛しく使ってもらえる美しい建物を援助できたらと思って参加したのを思い出します。
  現代社会がお金にすべてを還元してしまうこと。そのための分業とスペシャリストに頼らざるを得ない状況が問題なのではと思います。
 また高度に専門家化してしまった現代建築を「ハード」と言われてしまうのもそうした点ではないのでしょうか?ただものづくりに携わっているものとしては、建築をハードハードと言うけれど職人さんに代表されるようにまだ我々はものとの謙虚な対話があるだけましなのではとも思います。
ボランティアが専門性をもちはじめた時点でソフトが「ハード」にシフトした瞬間なのではないでしょうか?ひととひとのゆるやかな総体としての関係がソフトだとすると現代の状況は先程いったように経済のもとに分業化し専門性をもってしまったことで「ハード」な社会が形成されてしまったように思います(ちょっといいすぎかもね)。
 そうした意味でもわれわれの会はユニークだなと思います。けっこうみんな専門性が高い連中があつまりまたその仕事に関連したボランティアをしているわけです。間違えればすぐに「ハード」の状況に陥りやすいし1人の人間の原則につねに立ち返ることで大いなる「ソフト」にもなるのではないでしょうか?教育と建築という違うジャンルの専門馬鹿があつまって忌憚無くディスカスできるそんな雰囲気は会の宝のように思います。
(薩田 英男)


建築部会報告  3棟目の学び舎について      建築部会長 福峯衆宝

 今回は建設場所が都市近郊ではなく農村型の集落といいましょうか、そんな場所を選定しました関係もありまして1,2棟目の学び舎とは全然趣の違う建物になっています。
 前回は暖かみのある楕円形の建物で包み込むような学び舎でしたが、今回のサイトは標高の高い場所にあり、交通手段がとても不便で、木が生えていないような集落です。そこに学び舎を造る為の資材搬入、機材の運搬、資材調達等も考えると資材の量を減らすことが今回の学び舎造りには最重要要素でありました。
 そして何しろ会の資金も前回ほど無いので「早く、安く、安全である学び舎造り」を目指そうと計画を変更しました。
 その結果、楕円形と、2重壁は避ける。屋根はスパニッシュ瓦は止めて簡単なものにする。ユウカリの丸太はどこで伐採されてきたのかも知ることが出来ない現状と、丸太の小屋組が技術的にとても難しいのでやめる。現地駐在の高橋君でも解る建物を造ることが今回は大切である、と判断しました。
 屋根は現地にある鉄筋トラス梁を写真でも確認し、去年派遣した佐藤君の情報とで検討し、トラス梁組で計画しました。 楕円形の建物も時間と労力がかかることと、現地の人だけでは組み立てが難しくなるので今回はあらゆる意味でテストケース的に簡素化して、シンプルな四角い学び舎を作り、もし悪い点が発生した場合は次回の時点で反省点は生かそうと考えました。
 我々の会は最初から泥、土には愛着があり、現地の技術を少し改良するだけで良いものが出来るんです、と考えて立ち上がった経緯もありますので、今回も日干し煉瓦を使用する、しないで建築部会でも話し合いがもたれましたが、石灰を入れてアドベの性能を改良する問題は、長い目で実現させるよう研究を続ける事で合意しています。
 ただ楕円の学び舎がいきなり四角い学び舎になりビックリするかもしれませんが予算を抑えながらの良い建物を提供できる為の努力も必要ですし、資材の量の縮小化はこれから我が会がもっともっと僻地に入り込み本当に、学び舎を欲する人々の為に力を発揮できるかどうかの大切な挑戦であることを理解して頂きまして、益々のご支援と、応援をよろしくお願いします。          
          

ソフト部会から  3棟目の採光について     ソフト部会長 伊藤有樹

写真1 かまど
コチ・ヴァケリーヤ村[写真2]への、またその付近の他の集落への電気、ガスなどの供給は現在整備されておりません。夜は基本的に明かりは無く、重要な集会や識字教室の開催のときのみLPGガスランプを使用する状況です。調理用の煮炊きも土ブロックで竈を作り、潅木の枯枝や草、獣糞を燃料にして行っています。[写真1:かまど]
写真2 コチ・ヴァケリーヤ村
写真3 コンドーリ村 太陽パネル


 





 近辺の集落でコンドリーリ村というところにある識字教室として使っている建物には、外部から供与された太陽発電パネルが設置されています。[写真3] 夜間の教室で一灯のみのLPGガスランプでは、照度不足でもあり炎も揺れ、書類が見づらいといった不満もあったそうです。
 今回コチ・ヴァケリーヤ村における識字教室建設にあたり、そのような照明に関する問題点に関しても私たちは検討をし、村に提案したいと考えています。
 与条件として、「教室は昼間使用だけでなく夜間使用も念頭に置かなくてはならない」ということです。
 解決方法として、1.「公共電力網を引く」、2.「風力、太陽光発電による局部電力供給」、3.「既存LPGガスランプの使用を継続し、使用環境(屋内の反射率等)を改善」などといったことが考えられました。
 問題点は、a.「資金を潤沢に供給すれば基盤整備など行うことができるが、果たしてそれは全域の中でどういう位置付けになるのか検討不可能」b.「先端技術を援助する場合、例えば風力発電では機械のメンテナンス、太陽光ではバッテリー等の保守交換に対し、現地でその技術と資金があるのかどうか?」というものが考えられました。
 結果、「現在の方法を踏襲しつつ(LPGガスランプ)、建物内部など使用環境を整備していく」ような方向性が妥当である、という結論となりました。電灯電球といった私たちが普通にしている夜の光景から程遠いとは思いますが、コチ・ヴァケリーヤ村にとってみれば、新規な革新ではなく、少しの手間で生活環境を便利にしていく指針になってくれたらいいなぁ、と思っております。
 
 次に、コチ・ヴァケリーヤ村周辺は高地の例にたがわず樹木は皆無の地域であります。先にも述べましたが、わずかの潅木を工具、小屋構造、燃料等に用い、草類はリャマや羊の放牧用、屋根葺き材料、煮炊き用として使用します。ジャガイモや豆といった畑作を繰り返し、もともとわずかしかない大地の力を切り取り搾り取りしているような状況と思えます。短絡的に考えれば、良質エネルギー配信網を全域に整備すれば、少なくとも村周辺の大地への負担は減るかもしれません。しかし、「個人」もしくは「集落」といった立場でものを考えると、そのような方法(棚ボタ式?)を待っているよりも、(全域的な問題意識は持ちつつ)身近のものを改良していくのが正解なような気がしています。例えば、家屋熱貫流量の低下、ストーブ・煮炊き窯の熱効率の向上など、調べていけばどんどん出てくるような気がしています。今後、さらに見つめ互いに教え合っていく必要があると思っています。 

2棟目報告  シウダ・デル・ニーニョス地区 利用状況等

 識字教室は昨年秋の時点ではまだ開かれていませんでした。教師派遣側のNGOインファンテが財政的に厳しく昨年の教師の派遣はできなかったためです。(今月より識字教育スタートの予定です。)また、運営委員会が上手く機能しているとはいえない状況にあり、真に有効に使われるまでにはまだ時間がかかりそうです。

2003年3月8日土曜日

1棟目報告  ラ・フローレスタ地区 利用状況等

現在ベルギーNGOのフランチェスカさんが中心となり学び舎を使用しています。
行われている活動は以下の通りです。

現地だより  高橋慎一郎

 3棟目の工事は2002年12月から住民と共に開始されています。時には夜明けと共に、石の積み込みを始めたりと非常に建設に対して情熱のある人達です。現場での作業も、毎日、最低3人は、手伝っています。現在の所、順調に工事が進み、日干し煉瓦積みがまもなく終了です。しかし、雨期に入ったようで、最近、雨の日が続いて、時には、雹が降ったりと、雨期の本格的シーズン到来という感じです。
雨天の日は、倉庫小屋で、鉄筋の加工などの作業を続け、工事の完成を目指したいと思います。

 話は変わりますが、現場作業を終えた夜、彼らの家を訪れると、非常に暗い中で生活していることがわかります。お金を持っている人はガスランプを買えますが、お金のない人はアルコールランプや蝋燭の生活を強いられています。食事、勉強、食器の洗物など暗いと不便なことがありますが、時に薄暗いガスランプの回りに集まり、チャランゴという小さいギターのような楽器を奏でながら、みんなと語るのはなかなか趣きがあって、心地よいものです。こんな部屋が、将来、自分が住む家にあってもいいような気がしてきました。

 標高が高いので、虫は少ないと思っていましたが、思っていた以上に虫や鼠がいます。住民の中には寒いので台所で寝ている人もいますが、台所には食べ物があるので虫や鼠が集まってきます。鼠はパンをかじる程度ですけれども、時折、体の上を走ったりして、驚かされます。(今は慣れてしまいましたが。)彼ら・彼女らが日常使っているケチュア語を早くおぼえ、住民の中にもっと溶け込んでいけたらと思います。
(高橋)



3棟目の学び舎づくりの体制について

 3棟目の学び舎づくりの体制について簡単にご説明します。私たちは3棟目からよりニーズの高い地域で学び舎づくりを支援しようということになりました。昨年10月に現地調査を実施し、村人の結束力や敷地、水の確保、土質など諸々の条件を考慮した結果、コチャバンバ市内から車で3時間半ほどのアンデス高地にあるコチ・ヴァケリーヤ村に決まりました。インカ帝国の従属民の子孫だといわれるケチュア民族の人々が17家族で暮らす小村です。
 3棟目からはプロジェクトの運営自体が新体制でスタートします。これまでは現地NGOであったカウンターパートが、ボリビアで長年識字教育活動を実施してきた実績のあるユニセフ(スペイン語ではウニセフ)・コチャバンバ地域事務所となります。また、学び舎が完成後も適切に利用されるようにモニタリングする役をユニセフと共に地元タコパヤ市の教育局が担ってくれます。つまり、学び舎づくりの主体としてのコチ・ヴァケリーヤ村、調整役としてのユニセフ、完成後のモニタリングとしてのタコパヤ市教育局、技術支援・資金提供役としての学び舎づくりの会という4団体の協働体制で臨みます。



ボリビアと日本の「幸福度」

 「世界幸福度データベース」という耳慣れない指標があります。オランダのエラスムス大学の研究チームが67カ国のデータをまとめ、分析したものです。先日、各国の指標を見ていて興味深いデータに出くわしました。「先進」国である日本と「後進」または「発展途上」国であるボリビアとがほぼ同一の幸福度なのです(ボリビアが6.2、日本が6.3ポイント)。国内の貧富の差などを考慮すると検討する余地のある数値ですが、何か大事なことを考えるきっかけになるデータだと思いました。
ボリビアと日本にはさまざまな格差があります。1人あたりのGDPは日本がボリビアの9倍。保険医療費は33倍。携帯電話登録者数は10倍。平均余命には20年の開きがあります(61歳vs 81歳)。しかし、「幸福」というモノサシで両国を測ると、物質的な豊かさの差にかかわらず、さして変わらないのではないかということを上の数値は問いかけてきます。
 ボリビアの生活を想い起こすと、これらのデータは妙に説得力があるように思えてきます。かつて「南米の最貧国」というレッテルを世界銀行に貼られたボリビアですが、現地に行ってみると多くの笑顔に出会い、美味しいランチを時間をかけて食べ、親が子どもと過ごす時間も長い・・・など、スローライフが実現されているという見方もできてしまうのです。
 私たちの3棟目の「学び舎」づくりでは昨年末から2人の若者が住民と一緒に汗を流しています。ファーストフード大国の日本からスローフード伝統国のボリビアへとワープした彼らは何を感じているのでしょうか。この点については後ほど皆さまにお伝えできればと考えております。
(永田佳之)

2003年3月7日金曜日

コチ・バケーリヤ村 【「ユーヤイ・ワシ」(YUYAI・WASI)】(学び舎) 概要

用途:識字教室・児童活動保育・集会
管理:地区自治会  助言:アルケ郡教育委員会・ユニセフコチャバンバ
維持:資金-郡役所 作業-村地域の人
規模:日干しブロック壁RC柱1階。延床72m2

コチ・バケリーア村に建設された第3棟目「学び舎」は、前回までの仕様とかなり異なっています。形、工法、素材をこの高地のコチ・バケーリア村で、より安全によりスムーズに建設できるよう変更し、設計されました。詳細は以下にて。